2017年4月6日木曜日

バイオ医薬特許実験入門(2)

英文和訳課題1 (Molecular Cloning: A Laboratory Manual より引用)

製薬会社からキットが発売されているが、基本的な実験を理解することにします。

DNAの単離方法の一例(アルカリSDS 法(アルカリミニプレップ法、アルカリ溶解法ともいう))を紹介します。

この方法は、少量の大腸菌(形質転換大腸菌)から迅速に目的のプラスミド(組み換え体プラスミド)DNAを単離する方法です。

少量の大腸菌培養液(12 mL)からプラスミドを回収することができます。
アルカリ-SDSは、大腸菌の細胞壁とともに大腸菌染色体DNAを除去してプラスミドDNAのみが得られます。

SDSとは、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulphate)のことです。界面活性剤(surfactant)との1つです。界面活性剤とは、液体に溶けて表面張力を著しく低下させる作用をもつ物質のことです。つまり、汚れを落とす洗剤のようなものです。

ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、陰イオン界面活性剤と呼ばれるものの1つです。タンパク質を変性(denature)させる作用が強いです(変性とは、例えば、卵をゆで卵にするようなものです)。この作用を利用してSDSを用いたポリアクリルアミドゲル電気泳動は、タンパク質の分子量を簡便に推定する方法として広く用いられていています(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動
SDS-polyacrylamide gel electrophoresis)。電気泳動については「エッセンシャル細胞の生物学」等の教科書にも説明されていますが、後で説明します。

特許翻訳で気になるのは、どの程度、カタカナで表現するか、漢字にしたほうがいいのかということでしょう。その点は、特許庁の「標準技術集」を見れば、何となくわかると思います。

特許庁の標準技術集
標準技術集(核酸の増幅および検出)データベース:鋳型DNAの調製

を表現の参考にすること。

その他:じっけんレシピ - Sigma-Aldrich

http://www.sigmaaldrich.com/japan/ordering/technical-service.html

http://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/docs/SAJ/Brochure/1/j_recipedna.pdf


you tube DNA抽出関連の映像が多く挙げられています。




PREPARATION OF PLASMID DNA BY ALKALINE LYSIS WITH SDS: MINIPREPARATION

SDSを用いたアルカリ溶解によるプラスミドの調製:ミニプレパレーション

minipreparation 少量調製、ミニプレパレーション、ミニプレップ

Preparation of cells

細胞の調製

1. Inoculate 2 ml of rich medium (LB, YT, or Terrific Broth) containing the appropriate antibiotic with a single colony of transformed bacteria.  Incubate the culture overnight 37oC with vigorous shaking.

(Aさんの訳)適切な抗生物質を含む富栄養培地(LBYT、またはテリフィックブロス(Terrific Broth TB培地2mlに形質転換菌の単一コロニー(単集落)を接種する。この培地(培養物)を激しく振とうしながら37℃で一晩インキュベートする(37℃一晩激しく振盪培養する)。


To ensure that the culture is adequately aerated:
- The volume of the culture tube should be at least four times greater than the volume of the bacterial culture.

(Aさんの訳)× 見直し、培養物に対する十分な通気を確実にするために、培地の量を細菌培養物の量よりも少なくとも4倍を上回ること。

volume の訳に注意。 量、体積、容積、数量 etc.

- The tube should be loosely capped.
- The culture should be incubated with vigorous agitation.

(Aさんの訳)チューブにキャップを緩く嵌めること、
培養物を強く撹拌しながらインキュベートすること。

2. Pour 1.5 ml of the culture into a microfuge tube.  Centrifuge at maximum speed for 30 seconds at 4 oC in a microfuge.  Store the unused portion of the original culture at 4 oC.

(Aさんの訳)培養物1.5mlを微量遠心管(マイクロチューブ)に注ぎ入れること(入れること)。マイクロ遠心機で、4℃30秒間最高速度で遠心分離する。 原培養物の未使用部分を4℃で保管する。

pour は、「~を(~に)つぐ[注ぐ, あける, 注ぎ込む]into, in〉」ことですが、そのまま「入れる」でよいと思います。


特許明細書では、microfuge tube をそのまま「微量遠心管」と訳される場合が多いですが、所謂「マイクロチューブ」のことです。

3. When centrifugation is complete, remove the medium by aspiration, leaving the bacterial pellet as dry as possible.

(Aさんの訳)遠心分離が完了したら、吸引によって培地を除去し、細菌ペレットをできるだけ乾燥したままにする。 

Lysis of cells  (略)

次回以降に説明。

Recovery of plasmid DNA (略)

プラスミドDNAの回収

次回以降に説明。


和文英訳課題1 (次回)

DNAのエタノール沈殿

1.  1.5 mlのチューブにDNA養液を入れて塩濃度を調整し(酢酸ナトリウム:0.3M(pH5.2)、塩化ナトリウム:0.2M
酢酸アンモニウム:2.0〜2.4M)、全体を400μlとする。

2. 溶液の2倍量(800μl)のエタノールを加え、よく混合した後、冷凍庫(−20℃)で1時間放置する。

3. 微量高速遠心機を用いて、0℃、13,000rpmで30分間遠心する。

4. 上澄を取り除く(最初はデカンテーションで除き、底に残った液はペレットに触れないように注意しながらチップで除く)。

5. 氷上(4℃)に冷やしておいた70%エタノールをチューブの半分量(750μl)加えて、0℃、1,300rpmで2分間遠心する。

6. 上記4と同様の方法で、上澄を取り除く。

7. 遠心エバポレータを用いて、40℃で10分間ペレットを乾燥させる。

8. TE緩衝液(pH8.0)でペレットを溶解する。



2017年3月23日木曜日

バイオ医薬特許実験方法入門(1)

バイオ医薬系の実験方法の基本を学ぶ上で、物質やその濃度についての表現を理解しておくことが重要です。

1. まず、「物質」のイメージをつかみましょう。

特許明細書に出現する物質の表現として、matter, substance, material  があります。
それらの単語のイメージは、以下のように考えればいいのではないでしょうか。



material: 具体的なものというよりはおおまなかもの
    (固体、液体、気体などを含めた一般的概念または集合名詞としての物質)
substance: 具体的なもの
    (個々の物質)
material: substance を構成する材料のようなもの
すなわち、
matter → substance → material
抽象的      実体的         材料的
と考えられます。
また、見方を変えると以下のような単純化した図で表現できます。



(引用:

物質(matter)は、複数の物質(substance)が混ざり合った混合物(mixture)と1つの純粋な物質(pure substance)とに分類されます。混合物(mixture)は、不均一(不均質)混合物(heterogeneous mixture)と均一(同質)混合物(homogeneous mixture)に分類されます。不均一混合物は、部分部分の性質が一定ではない混合物であり、均一混合物はどの部分をとっても同一の性質を呈している混合物です。また、純物質(pure substance)は、化学結合力によって結合した2種以上の元素からなる純物質である化合物(compound)と1種類の元素のからなる単体(element)に分類されます。

ところで、物質の三態という言葉があります。

物質の三態(Phases of matter): 固体(solid)−液体(liquid)−気体(gas)

すべての物質は、温度と圧力が決まると、固体・液体・気体のいずれかの状態をとります。 これを「物質の三態」といいます。

 2. 溶液(solution)と懸濁液(suspension) という表現も明細書に頻出します。

違いは、融けているか、ただ懸濁された(濁ったような)状態なのかです。

コロイド(colloid)という言葉も簡単に説明しておきます。



コロイドは、物質(分散質)の分散状態を表す表現であり、媒体(分媒)の中に分散している粒子が一定の定常状態を保っている系をいいます。コロイド溶液は、状態によって、流動性のないゲル(gel)(例えば、寒天、ゼラチン、豆腐)と流動性のあるゾル(sol)があります。なお、コロイド溶液を形成する液体が水の場合、ヒドロゲル(hydrogel)といいます。


3.次に、濃度について簡単に説明します。

溶液は、溶媒(例えば、水)に溶質(例えば、食塩)が溶けたものです。
溶液 (solution) = 溶質(solute)+溶媒(solvent



溶液に含まれる溶質の濃度は、明細書の実施例では、「質量%」という言葉が頻出します。

「質量% (mass%) 」は、「質量パーセント濃度」を意味しています。
質量パーセント濃度(percent concentration of mass) [%] = 溶液[g]中の溶質[g]の割合[%]

言い換えると、
Percent by mass (m/m) is the mass of solute divided by the total mass of the solution, multiplied by 100 %.

質量パーセント濃度[%] = 溶質[g]/(溶質[g]+溶媒[g]) = 溶質[g]/溶液[g] × 100 

(例) 水190gに食塩水10gを溶かして得られる溶液中の食塩水の質量パーセント濃度を求める。

質量パーセント濃度[%] = 10[g]/(10[g]+190[g]) = 10[g]/200[g] × 100 = 2.1% (明細書では、質量で表していることをはっきりさせるために、2.1質量%(2.1 mass%)と表現します)

明細書では、「重量%(weight%)」という表現も頻出します。しかし、
特許庁は、SI単位系(The International System of Units)を推奨。重さの単位としては質量(単位:g)を用いるので、好ましい表現とは言えません。
(参考:http://www43.atpages.jp/abc3/data/pdf/patents/f026.PDF

ところで、質量とは “Mass is constant and, unlike weight, is not affected by gravity” です。
すなわち、質量は、地球上、どこで測定しても変わらない値です(重量は重力による影響を受けるので変動します)。

なお、特許明細書では、成分の割合を具体的な単位で表さないで、「質量部」(parts by mass) 、「重量部」 (parts by mass) を多用します。%(百分率)の場合、全体を100としたときの割合となるので、100%が何かを示さなければならなくなるからです。

また、注意しなければならないのは、「モル」という言葉です。

翻訳の際、特に英訳の場合、”mol”(モル)と(モル濃度)とを混同しないように!!

1モル(mol)は、一言で言えば、6.02×1023個(アボガドロ数という)の集団を表します。

M”は、モル濃度(molar concentration, molarity) [mol/Lmol/dm3、またはmol/m3]の単位です。
モル濃度は、単位体積の溶液中の溶質の物質量(溶液1 l中に溶けている溶質のモル数)を意味します。

(例文)

合金が、少なくとも約60質量パーセントの鉄と、約15〜約30質量パーセントの範囲内のクロムと、約3〜約4.5質量パーセントの範囲内のタングステンとを含む。
The alloy contains at least 60 mass% iron, about 15-30 mass% chromium and about 3-4.5 mass% tungsten. (特許庁、weblio
また、0.51.0質量パーセントのニームベースの組成物と混合することによって窒素肥料を被覆する。

The nitrogenous fertilizer is coated by being mixed with 0.5-1.0% by weight neem based composition.(特許庁、weblio