2017年3月23日木曜日

バイオ医薬特許実験方法入門(1)

バイオ医薬系の実験方法の基本を学ぶ上で、物質やその濃度についての表現を理解しておくことが重要です。

1. まず、「物質」のイメージをつかみましょう。

特許明細書に出現する物質の表現として、matter, substance, material  があります。
それらの単語のイメージは、以下のように考えればいいのではないでしょうか。



material: 具体的なものというよりはおおまなかもの
    (固体、液体、気体などを含めた一般的概念または集合名詞としての物質)
substance: 具体的なもの
    (個々の物質)
material: substance を構成する材料のようなもの
すなわち、
matter → substance → material
抽象的      実体的         材料的
と考えられます。
また、見方を変えると以下のような単純化した図で表現できます。



(引用:

物質(matter)は、複数の物質(substance)が混ざり合った混合物(mixture)と1つの純粋な物質(pure substance)とに分類されます。混合物(mixture)は、不均一(不均質)混合物(heterogeneous mixture)と均一(同質)混合物(homogeneous mixture)に分類されます。不均一混合物は、部分部分の性質が一定ではない混合物であり、均一混合物はどの部分をとっても同一の性質を呈している混合物です。また、純物質(pure substance)は、化学結合力によって結合した2種以上の元素からなる純物質である化合物(compound)と1種類の元素のからなる単体(element)に分類されます。

ところで、物質の三態という言葉があります。

物質の三態(Phases of matter): 固体(solid)−液体(liquid)−気体(gas)

すべての物質は、温度と圧力が決まると、固体・液体・気体のいずれかの状態をとります。 これを「物質の三態」といいます。

 2. 溶液(solution)と懸濁液(suspension) という表現も明細書に頻出します。

違いは、融けているか、ただ懸濁された(濁ったような)状態なのかです。

コロイド(colloid)という言葉も簡単に説明しておきます。



コロイドは、物質(分散質)の分散状態を表す表現であり、媒体(分媒)の中に分散している粒子が一定の定常状態を保っている系をいいます。コロイド溶液は、状態によって、流動性のないゲル(gel)(例えば、寒天、ゼラチン、豆腐)と流動性のあるゾル(sol)があります。なお、コロイド溶液を形成する液体が水の場合、ヒドロゲル(hydrogel)といいます。


3.次に、濃度について簡単に説明します。

溶液は、溶媒(例えば、水)に溶質(例えば、食塩)が溶けたものです。
溶液 (solution) = 溶質(solute)+溶媒(solvent



溶液に含まれる溶質の濃度は、明細書の実施例では、「質量%」という言葉が頻出します。

「質量% (mass%) 」は、「質量パーセント濃度」を意味しています。
質量パーセント濃度(percent concentration of mass) [%] = 溶液[g]中の溶質[g]の割合[%]

言い換えると、
Percent by mass (m/m) is the mass of solute divided by the total mass of the solution, multiplied by 100 %.

質量パーセント濃度[%] = 溶質[g]/(溶質[g]+溶媒[g]) = 溶質[g]/溶液[g] × 100 

(例) 水190gに食塩水10gを溶かして得られる溶液中の食塩水の質量パーセント濃度を求める。

質量パーセント濃度[%] = 10[g]/(10[g]+190[g]) = 10[g]/200[g] × 100 = 2.1% (明細書では、質量で表していることをはっきりさせるために、2.1質量%(2.1 mass%)と表現します)

明細書では、「重量%(weight%)」という表現も頻出します。しかし、
特許庁は、SI単位系(The International System of Units)を推奨。重さの単位としては質量(単位:g)を用いるので、好ましい表現とは言えません。
(参考:http://www43.atpages.jp/abc3/data/pdf/patents/f026.PDF

ところで、質量とは “Mass is constant and, unlike weight, is not affected by gravity” です。
すなわち、質量は、地球上、どこで測定しても変わらない値です(重量は重力による影響を受けるので変動します)。

なお、特許明細書では、成分の割合を具体的な単位で表さないで、「質量部」(parts by mass) 、「重量部」 (parts by mass) を多用します。%(百分率)の場合、全体を100としたときの割合となるので、100%が何かを示さなければならなくなるからです。

また、注意しなければならないのは、「モル」という言葉です。

翻訳の際、特に英訳の場合、”mol”(モル)と(モル濃度)とを混同しないように!!

1モル(mol)は、一言で言えば、6.02×1023個(アボガドロ数という)の集団を表します。

M”は、モル濃度(molar concentration, molarity) [mol/Lmol/dm3、またはmol/m3]の単位です。
モル濃度は、単位体積の溶液中の溶質の物質量(溶液1 l中に溶けている溶質のモル数)を意味します。

(例文)

合金が、少なくとも約60質量パーセントの鉄と、約15〜約30質量パーセントの範囲内のクロムと、約3〜約4.5質量パーセントの範囲内のタングステンとを含む。
The alloy contains at least 60 mass% iron, about 15-30 mass% chromium and about 3-4.5 mass% tungsten. (特許庁、weblio
また、0.51.0質量パーセントのニームベースの組成物と混合することによって窒素肥料を被覆する。

The nitrogenous fertilizer is coated by being mixed with 0.5-1.0% by weight neem based composition.(特許庁、weblio


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